昇進・昇格試験の一つに用いられるヒューマンアセスメント(HA)研修。管理職の登竜門であることは知っているけど、実際に何する試験なのかまではわかりませんよね。実際に私も10年以上も前にこの研修を受けましたが、対策を疎かにしてしまい、当日の研修(試験)はかなり苦労しました。
HAそのものは相当前に受けましたが、毎年管理職候補の部下たちへ、この研修を受けるにあたっての心得を毎年伝えてきました。その中で受かる人・受からない人の特徴も見えてきましたので、お伝えしていきます。
(注)研修委託先によっては、違うケースもあると思いますのでご注意ください。
ヒューマンアセスメント(HA)とは
ヒューマンアセスメント(HA)は、米国では管理職を選抜するうえで広く利用されてきており、日本でも1970年代から大手企業だけではなく中小企業でも多く採用されてきております。特に人事の考課測定に優れていることから、企業の目的は様々ではあるが、主に管理職任用試験の位置づけとされています。
今なお、管理職候補社員に対して選考手段の一つとしてヒューマンアセスメント(HA)研修・試験を採用している企業は多く、我々日本では重宝されているプログラムの一つと言えます。
どんな人が受けるのか
企業存続のためには、優秀な人材が会社を管理・コントロールする必要があります。限られている資源を最大限活用して、利益を生み出すのです。そのために、会社の立場で管理する管理職が必要となるわけです。ヒューマンアセスメント(HA)は、企業が必要とする管理職の素養を見分けるための手段として、管理職手前の候補社員が受講するのが一般的です。
ヒューマンアセスメント(HA)には管理職候補者向けとは別に、上級管理職向けのヒューマンアセスメント(HA)もあり、こちらはより高度な役割を担う人材を選考するために管理職が受講します。
ここでは、管理職手前の管理職候補社員が受講するものとして記します。
昇進(昇格)試験でヒューマンアセスメント(HA)を受けさせる目的
ヒューマンアセスメント(HA)は、第三者(講師)が日本国内企業における管理職に必要な知識・能力を備えられているのかを客観的に判断する一つの指標として用いられることが多いです。多くの会社がヒューマンアセスメント(HA)を利用していることで、そのノウハウは研修委託先に蓄積されており、1企業だけでは判断が難しい潜在能力を全国の会社平均で比較・評価することが可能となるためです。つまり、「一般的な管理職として求められるスキル・能力を備えている人材か」を指標として判断することが可能なため、受けさせていると考えることができます。
一方で、会社独自の昇格試験だけだと、偏った目線になってしまう可能性があることから、多くの会社はヒューマンアセスメント(HA)の結果や会社独自の昇格試験,役員面接等を行って、総合的に判断したうえで管理職を慎重に選考しています。
ヒューマンアセスメント(HA)を受ける上での心得
ヒューマンアセスメント(HA)では、高い負荷を与えたときにどういった力を発揮するのかを見る傾向が強いと考えます。ヒューマンアセスメント(HA)でどんなことをするのかは後述で詳しく記しますが、例えば期限ギリギリの仕事をあと1時間で終わらせなければならない状況の中、お客様からクレームの電話がかかってきた、あなたならどうする?という感じです。つまり、作業で手一杯の状況をあえて作って他の作業が入ってきたときや、時間に追われているときにどういう行動、言動、態度、アウトプットができるのか、そういう類の点を講師は見ているように感じています。大変な状況下でも活き活きと活力のあるところを見せていくことを心がけましょう。
もう一つ、研修・試験とはいえ、真剣に取り組むことです。私が受講したときにも居たのですが、恥ずかしがっていたり遠慮していたら、講師の評価は悪くなると思ってください。この研修・試験で出来ていないことが現場の管理職になったら出来るということはあり得ませんので、自分の出し切れる限りの力を発揮することを期待しています。
ヒューマンアセスメント(HA)では何を評価するのか
評価の基準は公表されていない
残念ながら、今までどんな本やブログ記事、受講した人に聞いて情報を集めても、ヒューマンアセスメント(HA)の評価基準はわかりませんでした。基準がわかると試験対策をガチガチに行っていく人がいるためあえて公表していないのと、研修委託先のノウハウでもあることから公表すると選考の一つとして受講させる企業が減るからだと考えます。
確かに、管理職になる人材にはどんな苦境でも乗り越えられるだけの忍耐力や最後まで諦めない姿勢が必要で、これをペーパーテストのように丸暗記してサラッと出来てしまうと、正しい評価が出来ないですね。ヒューマンアセスメント(HA)を受ける皆さんは、研修・試験の意図をくみ取ったうえで、どういった行動をとればよいのかシミュレーションしておくことをおすすめします。
特に、今までの仕事も含めて、何かしらトラブルが発生することを事前検知したり、トラブルを克服したときのことを思い返してみてください。実際に自分が今現在出来ていなくても周りの管理職を見て参考になる人がいれば、その人の行動パターンを参考にすると良いです。
管理職に必要な能力(ディメンション)は様々なメディアや本にも記載されており、講師は4つの能力領域「自己管理能力」「対人関係能力」「業務管理能力」「付加価値創造能力」と、13個の能力因子が発揮されているかをヒューマンアセスメント(HA)を通じて見ています。この能力がどんなものなのか参考までに紹介しますが、ヒューマンアセスメント(HA)の中でどの部分で発揮出来て、どこを見ているのかまでは今だにわかりません。言えることは(冷たいようですが)これらの能力をヒューマンアセスメント研修で遺憾なく発揮してください、これに尽きます。
自己管理能力
ここでは4つの能力因子「持続性」「自律・安定性」「果断性」「活動性」が問われます。
持続性
「持続性」は、仕事に対して高い達成基準を設けて、常にチャレンジ目標を追求し、その達成のためにはレベルの高い仕事を維持できる姿勢を指します。自分の役割を認識して、高い達成基準を会社目標に結び付けて、常に最新の技術を用いて行動し続けているかを意識すると良いでしょう。
自律・安定性
「自律・安定性」は、様々なトラブル要素の状況下でも、周りからの影響を物ともせずに、自身の役割を全うするための行動・言動を行う姿勢です。いわゆる自主性と忍耐力が問われます。業務上、様々な困難な場面に直面しますが、一人流されるのではなく自分の信念をもって責任を自覚した行動をとっていくことが大切です。
果断性
「果断性」は、自身の責任のもと果敢に意思決定を行う姿勢を指します。人によっては、石橋を叩いて渡るを信念としている方も居ますが、ビジネスの現場ではチャンスを逸失してしまいかねません。管理職はそのリスクを鑑みて、時にはスピーディーに判断を求められることになります。第三者的な立場ではなく、自らの責任を明確にしたうえで判断していくことが求められます。
活動性
「活動性」とは、何事にも活発に取り組み、発言を含めて積極的に行動する姿勢です。受け身ではなく、自発的に行動することが重要で、素早く進んで動き始めて、周りにも良い影響を与えられているかがポイントです。
対人関係能力
ここでは3つの能力因子「統率力」「説得力」「対人配慮」が問われます。
統率力
「統率力」とは、目的や目標・課題事項を見失わずに、周りの関わるメンバからの信用を獲得しつつ全体を正しい方向に導いていく姿勢です。いわゆるリーダーシップにあたりますが、ファシリテーターではなく自ら行動し、メンバーを引っ張っていく力のことです。
説得力
「説得力」とは、相手の立場や意見を聞きつつ、自らの意見や考えを述べて円滑に方向性律していく力を指します。威圧的にならずに、理解・納得させる能力です。そのため、現状分析を明快に伝えられる力やギャップ箇所を見つけて、説得する上での問題点を明らかにした上で、相手の意見を取り入れつつ合意に導いていくことが必要です。
対人配慮
「対人配慮」とは、相手の状況や置かれている背景を汲み取って、必要に応じてサポートをしたり、やる気を高めようとする姿勢です。相手を大切なメンバーであることを認識させて、共感し褒めることもテクニックとして利用します。モチベーションを高められるように仕向けていく能力とも言えます。
業務管理能力
ここでは2つの能力因子「計画力」「統制・成果管理力」が問われます。
計画力
会社や上司が提示する事業計画や事業戦略をINPUTにして、自らの具体的な実行計画を定める能力を指します。優先順位や必要資源を確認しスケジュールを決定していくことになります。適当な計画は後々ひどい目にあいますので,目標までのプロセスを明確にする力が必要となります。
統制・成果管理力
「統制・成果管理力」とは、目標に対してその中間プロセスをマイルストーンとともに状況管理する能力で、必要に応じて計画の修正や是正を図っていく力です。ビジネスは何事も順調に行くとは限らないため、計画通りに実行されているかを常にチェックして、正しい方向に導くことが必要です。
付加価値創造能力
ここでは4つの能力因子「問題発見力」「分析力」「総合判断力」「創造指向」が問われます。
問題発見力
「問題発見力」とは、どこに問題が潜んでいるのかを察知する能力で、相手の言動だったりビジネス書類だったり、様々なところから見つけ出す能力のことを指します。ここでは情報を収集しそれを整理する力も必要で、事業方針等軸となるものとの差分がないか、常に問題意識を持った行動が必要となります。
分析力
「分析力」とは、論理的に物事を考えて問題の本質を見抜く力を指します。ここでは数字情報や様々な分析ツールを活用し、問題点・課題の洗い出しを行って、必要な対応を考えることが必要です。また、収集した情報だけだと足りない場合は、仮設を立てながら分析を場合分けしていくことも行い、原因を突き止めていくことになります。
総合判断力
「総合判断力」とは、あらゆる方向性から物事を見たうえで、最も優れた現実解を判断する力を指します。ここでは、様々な選択肢を洗い出したうえで、どれが適切なのか判断基準を設けることを行います。また、リスクについても検討したうえで、トータルで最も効果を得られるものを選出することが求められます。
創造指向
「創造指向」とは、今までのやり方にとらわれず、斬新なアイデアや対策を検討・発案する力を指します。自らが過去からのやり方を疑ったり、今まで取り入れなかったことを取り入れたりすることで、メンバー自身にも影響を与え、より新しい対応策が生まれる環境を作り出すことになります。
ヒューマンアセスメント(HA)ではどんなことをするのか
研修・試験のスケジュール
研修委託先によって様々だと思いますが、2~3日で行われることが多いです。3日の例を紹介しますと、初日の最初は研修の説明(オリエンテーション)、最後には講師とのアドバイス面談、自己啓発計画の作成があります。その間が研修(試験)ということになりますが、内容は「グループ討議演習」「インバスケット演習」「面接演習」「戦略策定・発表演習」の4つに分けることができます。それぞれ個人ワークやグループワークがありますが、ポイントは各ワーク後に振り返りがあるという点です。振り返りでの発言や行動も講師に見られているので、油断しないようにしましょう。
また、この研修ではグループワークを行うためのグループ分けを行います。だいたい4~6名で1グループとなり、グループ討議演習や戦略策定・発表演習,各振り返りで一緒に行動することになります。
グループ討議演習
グループ討議演習は、グループで行う演習です。
テーマがあらかじめ3つほど準備されており、最初の5~10分程度で各3つのテーマを読み込みます。その後グループ討議を3つのテーマについて合計60分程度で討議するという演習です。進行役や司会は決めずに行うよう講師から指示があるケースが多いようです。
グループ討議は以下の図のように座って、中央にビデオカメラが準備されて録画します。後の振り返りの時にグループで確認することになります。
テーマの内容はその時々ですが、自身が管理職という立場に立って、どう課題解決するかの討論となりますので、課題に対してどう提案するかや、この問題に対してコンサルしてほしいなどが出てきます。
例えば、ピアノメーカで自社製品を新規ビジネスとして始めるにあたって、若手にPJを任せたけど、新春セールの目玉にしたいが出来たものに対する評価がいまいち。コンサルタントの立場でどのような提案を行うか、など。
1つ1つのテーマはそれなりのボリュームがあるのですが、ただ読んで理解するだけではなく、ここでは裏に隠されている背景や、提案に結び付けるためのエッセンスを拾う意識が重要です。
グループ討議(いわゆるディスカッションです)では、自分の主張だけを言うのではなく、相手のアイデアを肯定しながら、さらにブラッシュアップした案を意見交換すると、よりよい答えにたどり着きやすいと思います。
インバスケット演習
インバスケットとは、処理されていない決済書類がまだ箱に残っている状態のことを指していて、この演習では25~35案件程度の未読メールを確認して、時間内で可能な限り処理を行います。
いかにして、「なりきることができるか」がポイントとなる演習です。
よくあるのが、「〇〇店の店長が入院して、急遽あなたが変わりに店長に任命されました。でも明日から海外出張に行くため、2時間で未解決案件を対処・指示しなければなりません」というシナリオ。(これはイメージです)
各案件(メール)の優先順位を考えて、適切な返信(対処方法の支持)を行っていくわけですが、必ずしもすべてに返信するというわけではないです。不要なものも混じっていることから、見極めが大切です。人に関わることやお客様クレームに繋がる事案、宛先が重要人物かどうかなどで見分けると良いでしょう。
また、返信の仕方についても、必ずしも対処・指示という形でなくても良く、連絡形式で他の人に転送したり、相談という形で更問したり、時には自身の上長にエスカレーションするということも必要になります。したがって、一つ一つ丁寧に返信していくと時間が足りないということが往々にして起きてしまうことから、適切に対応する力が必要になってくる演習です。
案件によっては、別の案件と関連があるものも存在し、直接的に判断するだけではなく、推測も交えながら返信することもあります。かなり読み込まないとわからないケースにあたりますが、読み込みに時間をかけ過ぎたら、本当に必要は指示等が出来なくなってしまいかねないので、高い処理能力も求められる演習です。
面接演習
面接演習は、インバスケット演習中に別部屋に移動して、講師の方が部下役となって10分程度の面接を行う演習です。インバスケットで大変な時に作業が中断して、頭を切り替えて面接演習を行う、というイメージです。(考えただけでも大変ですね)
自身の面接演習直前に10分間資料を読み込むことができます。インバスケット演習の内容とは全く異なるシチュエーションなので、注意が必要です。
面接内容は、例えば「社員がいきなり会社を辞めたいといってきたのでどうやって引き留めるか」や、「やる気のある若手社員をベテラン社員に預けてスキルを身に着けようとさせたけど、ベテラン社員から不満が高くて教えたくないと言われているので、何とかしてベテラン社員を説得させる」など、一筋縄ではいかない面接内容が大半です。
面接は10分程度です。相手役は講師の方が対応するのですが、講師の方も面接対象になりきって接してくるため、この面接演習で問題が解決することはほぼないと思います。いかにして目的を見失わないように、面接の趣旨と実施してもらいたいことを確認していって、面接相手からの要望を受けてどうやったら良いのかを話し合うことになります。
戦略策定・発表演習
とある会社の状況や上位レイアからの方針が書かれた資料を読み解いて、戦略を検討し事業計画として落とし込み、プレゼンを行うという演習です。
この手の演習で利用する資料は膨大で、すべて読み込むだけでも相当時間がかかってしまいます。そこでおすすめなのは、戦略の書き方等ある程度フォーマットをイメージしておくことです。
例えば、①Visionは何か②AsIs・ToBeによる現状と目標の見える化③現状分析として市場シェアは?④市場動向は?⑤事業ごとの売上・利益はどうか?⑥国内だけではなくWorldwide的な視点で見るとどうか?⑦攻めどころは?(事業戦略に繋がる)⑧実行計画(事業別,売上/利益目標)などを書き記すという具合です。これは好みが分かれるところだと思いますので、事前に決めておくと当日進めやすのではと思います。
上述のポイントになる箇所をメモし、最終的にどうまとめていくのかイメージしながら資料を読み込むことをお勧めします。
プレゼン資料のまとめ方ですが,自分が考えたフォーマットごとに1枚作るイメージで、それぞれテーマとヘッドメッセージ、ボディーの3分割に分けるのが見やすいと思います。
アドバイス面談と自己啓発計画の作成
最後に、自己啓発計画としてヒューマンアセスメント研修(HA)を通じて、自己啓発の計画を作ります。その間に講師の方と1対1で面談がありますが、ここでは評価的なことは言われず、良かったところ悪かったところをそれぞれポイントに絞ってアドバイスしてくれることが多いです。
実際の評価については、後日会社(上長)から行われることでしょう。
まとめ
ここまで、ヒューマンアセスメント(HA)についてまとめましたが、いかがだったでしょうか。少しでもイメージが沸いていただけたら幸いです。結果については、合否云々よりも第三者機関があなた自身を見たときの評価と割り切って、直すところは直すという気持ちでいれば、あなたの管理職への道は前進しかありませんので、真摯に受け止めて次に繋げましょう。ヒューマンアセスメント研修は様々な研修委託先で行われておりますので、今回まとめた内容だけに留まらず、情報収集・自己研鑽に励んでください。管理職へのチャレンジ、応援してます。
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